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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1318号 判決

被告人

柴田実

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役十月及び罰金一千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五十円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

弁護人林武雄の控訴趣意第二点の要旨は

原審は、訴訟手続に違背がある。即ち賍物故買の起訴事実につき予備的に窃盜教唆の起訴があるが、原審は、賍物故買について、予備的に窃盜教唆の起訴を為し得ないから、予備的請求については公訴棄却の判決をするか又は請求棄却の判決を為すべきものである。窃盜教唆については追起訴があつたが、予備的請求については取消がないから、右の通り判決を為すべきものである。又窃盜教唆の追起訴については、弁護届がなく、窃盜教唆の被害品目の特定がないというにある。

よつて本件記録を案ずるに、被告人に対しては、原判示第二事実の賍物故買について起訴されたが、公訴進行中、右公訴事実につき、検察官が予備的に窃盜教唆の訴因を追加したところ、原審は、破棄差戻前においては、右予備的訴因即ち窃盜教唆を有罪として判決したところ、控訴審である当裁判所において、右のような訴因の予備的追加は、違法と判断して、差戻したので、原審は、差戻後においては、検察官が窃盜教唆について、新しく追起訴したのを待つて、原判決において窃盜教唆を第一事実として有罪とし、第二事実として賍物故買を有罪と認定したことが認められる。右のように窃盜教唆につき予備的訴因の追加があつても、別個に起訴があつたものと認めることができないから、原審において、窃盜教唆について追起訴を為すことは、違法でなく、又予備的に訴因が追加せられる前の賍物故買の訴因について有罪と認定した以上、右の予備的訴因について判断をなすことを要しないものであり、起訴された事実について更に重ねて起訴されたものと解することはできないから、原審が窃盜教唆の訴因について、何等の判決をもなさなかつたことは、違法ではない。次に窃盜教唆の追起訴についても、原審弁護人徳江治之助は、弁護届を提出していることが本件記録添附の弁護届によつて明らかに認められるから、この点についても訴訟手続に違背はない。更に窃盜教唆の公訴事実についても、起訴状の記載によれば、被告人が、伊藤三郎に対し、その勤先である荒井自転車製作所から自転車部品を窃取するように教唆し、同人をして、同所で自転車部品合計約一万七千七百点位を窃取させた旨記載せられていることが明らかであるから、窃盜教唆の訴因としては、十分であつて、犯罪事実及び訴因が特定せられていないと解することができない。論旨は理由がない。

(註 本件は量刑不当に依り破棄自判)

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